O君のお父さんとの出会い
私がいた教室には、保護者も一緒に通ってくることになっていました。O君はお父さんとおじいちゃんと一緒に暮らしていたので、いつもお父さんが来てくれていました。
O君のお父さんは、いつもO君に愛情をもっていましたが、O君が学校で起こすトラブルや、“こうあってほしい”という思いと違う様子について受け入れる事が難しく、悩んでいました。トラブルを起こすことで周りの子にも迷惑をかけていると思い、他の親御さんとも打ち解けることができずにいました。そういった中でO君のお父さんには、O君がもともともっているよさが見えなくなっていっているようでした。
“みんなと同じように、学校でできるべきことをできていてほしい”という思いで、そうでないことにとても焦りを感じてしまっていたのだと思います。そして、教室から逃げたりしないで、何とか集団の中で過ごすことを求めました。私がいた教室に通うことも、“みんなと違う”場所で支援を受けるということになることを受け入れられず、初めは拒否していました。私たちのことも敵だと思っていたと思います。
O君のことを理解しようとして、自分のことを振り返り始めたお父さん
お父さんは、O君と同じでとても繊細な方でした。なので、教室に来て保護者同士で話すグループの輪にもなかなか入れずにいました。
いつかお父さんにお話を聞いたとき、「他の保護者の方の話を聞いていると、自分は全然できていないと思ってしまって辛い。」ということを言っていました。ただ、お父さんはとてもあけっぴろげな性格の人だったので、思ったことを何でも話してくれました。
お父さんは、「自分は短気なところがあってOと似ている。」とか、「小学校の時に教室にいるのがしんどかった。」とか、自分自身のことを話してくれるようになりました。
弱みも含めて、人に相談できるようになったお父さん
O君のお父さんは、そうやって自分の弱みや、抱えていたトラウマのようなものも話せるようになっていたので、O君のことで困っていることも、だんだんと「Oがこんなトラブルを起こした、どうしよう。」とか、「家でこんな風に怒ってしまった。」というように、話してくれるようになりました。
うまくいかないことがあったり、それを人に相談したりすることが、弱さとか、怠惰とかではないのだということを分かってきてくれていたのかなと思います。それで、O君が自分らしくいられる場を探してこの教室にたどり着いたことも、O君の怠けとか、ダメなところとかではなく、「O君がちゃんと自分を理解して行動している結果なのだ。」とだんだんと理解してくれるようになりました。O君が卒業してからも、お父さんは学校に来たり、私のいた教室に電話をしてきたりしていたので、関わることがありました。
教室につながった当時、人に相談することは弱みを見せることになる。「どんな支援も受け入れないぞ。」という意気込みが見えて苦しそうだったお父さんですが、O君が自分で過ごしやすい環境を見つけていくのにつれて、「いろんな人に話したり、助けてもらったりすることは悪いことじゃない。」と、正直な自分のままに人と繋がることができるようになったようでした。
次回は、“普通” とは何か?“こうあるべき”は、本当にそうなのか?
みんなで考え、いろんな考えを認め合った一年間のグループワーク(テーマは人間関係の悩み)について、書いてみたいと思います。