転移と逆転移。

 

 転移とは、例えば 誰かに恋愛相談をしているうちに、その人のことを好きになってしまう…。

~ 「雨の日の心理学」(東畑開人著・角川書店・2024刊)を読んで ~

 10年来の相談者&珈琲友達に紹介されて、読みました。
“人生にはこころのケアが始まってしまう時がある。世の中には3種類の心理学がある~ ①素人のための心理
 学 ②素人の雨の日の心理学 ③専門家のための心理学。 心のケアは95%が素人によってなされている“
で始まり、裏表紙には “こころの雨は突然降りだす。家庭で、職場で、誰かをケアするあなたへ! 雨の日に
傘を差すように、心理学を役に立ててもらえたら。 臨床心理士が贈る5日間のやさしい授業“ とあります。

1回目の授業/こころのケアって何だろう? (ケアとは依存を引き受けることである。 死にたい気持ちがある、そこに人間らしく葛藤している相手がいることに気づく)p.46
2回目/こころをわかるとはどういうことだろうか。 (誰かが分かろうとしてくれたことは、たとえ十分に
  成功しなくても、こころに残ります。そのこと自体が、孤独を和らげることを忘れないようにして)p.129
3回目/こころはどうしたらきけるのか。 (きくとは情報収集をする以上に、つながりを築くこと!)p.194
4回目/こころはなにをすれば助かるのか。 (セラピーが危険なのは、自立を促すとか、傷つきと向き合うとかという名目で、実際には復讐しているだけのことがある。復讐は失敗とは違って、相手の成長にはつながらないんです。二人のつながりを破壊し、こころを損なってしまうだけです)p.227        
5回目/ケアする人をケアするもの。 (本を通してバックアップしたいと思い、この授業をやってきました)
                                               p.320
この本を読んで、知らなかったこと(転移と逆転移、コンテイニング理論)と、「質問/人に相談することはとても難しい」への私なりの回答を書いて、感想とします。

「転移と逆転移」 (p.142 ほか)
 “話を聞くことでおかしな関係になる。 皆さんにも経験があるのではないでしょうか? (はい)
 これを解き明かしたのが、フロイトです。発見されたのが転移の理論です。これがその後の精神分析を決定
 づけました。 関係が深まると、必ず転移と逆転移は生じてきます。 新しい人との出会いとその関係の
 深まりが、過去を癒してくれることがあるのも、その賜物です。 古い呪いが再現されるからこそ、新しい人
 が呪いを解くことができるわけです。 問題が起きてしまったことに気づき、やり直すことです。
 転移とは話を聞いてもらっているうちに、相手との人間関係に元々あった困りごとが再現されてしまうこと
 です。 例えば恋愛相談をしているうちに、その人のことを好きになってしまう。 (いますよね)
 逆転移とは、治療者側に起きてくる感情の変化です。ケアする側がいろいろな気持ちになってしまうこと。
 僕らの人間関係というものが、過去の繰り返しということです。これを究極に遡っていくと、幼少期の親とか
養育者との関係に行きつきます。
⇒(田中) ボランティアを始めたころ、そうなったことがありました。 何も知らない私は、2年間 SWさんを頼りにして、相談かけてきました。 そして、突然 SWさんが濃厚な化粧をして、何も言わず座りました。 乱読したメンタルの本に、関係が深くなると 性的虐待を受けた支援者が、信頼を勘違いして愛情になってしまうことがある、と。 SWさんに言いました。 “性的虐待を受けたと思うけど、そのことにしっかり向かい合うことが必要ではないか?”  SWさんは去っていきました。 信頼のない愛情? のままで・・・。
そのあとのケースでは、ほぼお互いが気づき、過去を癒すように再調整できています。

「コンテイニング理論」 (p.153)  *containing ~ 包み込む 器に収容する 我慢する
 心が飛び交うということはどういうことなのか?
 これを一番シャープに説明してくれるのが、精神分析家 ウィルフレッド・ビオンです。
 彼が革新的だったのは、それまでの精神分析が一人のこころの中で何が起きているかを考えていたところから
 二人の間で何が起きているかを考え始めたからです。
 心が飛び交う。この魔術みたいな話を説明してみようと思います。 するときくとは何かが見えてきます。
 これを説明したのが、ビオンの コンテイニング理論 です。 赤ちゃんと母親のコミニュケーションを例に
 あげながら、こころの交わし方を説明しています。
 第一段階~ こころを預かる。 ギャギャーと泣きます。
 第二段階~ こころを消化する。 新しいオムツをはかせてあげると、天使の笑い声に代わります。
 この一連のプロセスを、ビオンはコンテイニングと呼びました。
 きく ➡ 考える ➡ わかる。 この繰り返しがコンテイニングのプロセスになります。
 だから話を聞いてもらうと、少し楽になります。自分だけでは消化ができなくなったこころを、他者の
こころを使って消化すること。 これが きくの力 です。
⇒ 私は相談者と向かい合ってすぐ、“さあ、どうぞ。なんでも話してください” と言って始めます。
  沈黙は好きです。 30分くらいは沈黙して、話し出すのを待っています。
  相手のこころの中に入っていきます。 相手が拒絶したら、戻ってきます。 柔軟性が大事ですよね。
  35年前、送迎と話し相手のボランティアを始めたころ、メンタル系の本を乱読しましたが、フロイトは
  気になりませんでした。 今回、“フロイトは意識があって無意識があってみたいなことを言ってるわけだ
  けど、それって一つのこころの中の話ですよね“ (東畑開人)と聞いて、一人だから、僕は関心を示さな
  かったんだな、と思いました。 二人以上に関心があった。

「質問/人に相談することはとても難しいと感じます。自分の気持ちは自分にしかわからないのではないか、
 わかってくれなかった時の絶望を味わうくらいなら自分で解決しようと思ってしまうことがよくあります。
 この考え方の乗り越え方を教えてほしいです。」(p.341)
⇒(田中) 私は人や本によく相談します。 この間、相談支援で応答を続けてくれている人などにも。
  例えば、20代女子からの答えです。 “どうすれば治るのかと考えてしまうから、相談できないのではない
か? 解決する方法を求めてしまうとダメなのではないか?“ 
  わかってくれないとき、絶望を味わう。 この経験はないです。 相手の問題ですから。応答が続いている
  うちは大丈夫です。
  バックアップしてくれる人を用意する。 チームで関わる。 ❓ マークを点灯(保存)して置く。
  例えば、ある母親のこどもに対する関わりに 違和感 を感じました。数年後、この父親がこどもと無理
  心中未遂をしたことを知り、消灯となりました。

(田中敏夫記)


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