第2回 O君との出会いと、“子どもの声に耳を傾ける”ということ

I STRET NOMO ”イストレットノモ” (なんとかなるさ)

O君との出会い

O君との出会い

O君と私が出会ったのは彼が2年生のときで、彼はそのころよく友達に暴力をしたり、鯉の池に墨汁を入れたり、そんなことで目立っていましたが、教室にいられず飛び出して行方不明になることは日常のことでした。学校では彼にどう対応したらよいか分からず、保護者との信頼関係をつくるのも難しくなっていました。O君は学校での集団行動に苦戦していましたが、学校を休むことはほとんどありませんでした。彼が学校を休んで家にいることは、“そんなことは許されない”と彼の祖父やお父さんにコテンパンに叱られることにつながることだったので、学校にいる方が安全だったからです。そんな様子のO君が、私が配属されたばかりの教室に通ってくることになりました。

個別の時間で知ったO君の気持ち

O君と個別の時間を過ごすことになって、私はとにかく彼のことを知ろうと思い、彼の好きな工作やキャッチボールをしながら、たくさん話をしました。そのうち、O君は自分が何に困っているのか話をしてくれるようになり、何かトラブルがあるたびに、駆け込んできて話をしていくようになりました。O君がよく言っていたのは、「教室にいると、いろんな人の声が聞こえてきてこわい。心がざわざわする。先生の声も、高すぎて頭が痛くなる。」「先生が話していることの意味が分からない。ずっと席に座っているのがつらい。自分の発言にみんなが笑ってバカにしてきた。」というようなことでした。あとで話を聞いてみると客観的にみてみんながバカにしているようなことや、先生の声がすごく聞き取りづらいというようなことはないのですが、彼にとっては真実であり、何とか自分を守ろうとしてその場から逃げたり、暴れたりしていたのです。

繊細な心の持ち主O君

同年代の子たちとのグループワークではO君はいつも緊張していました。みんなでカードゲームなどをするのですが、特に新しいことをするときにはとても緊張していて、緊張のあまり暴言を吐いてしまったり、部屋から出ていったりすることもありました。そんなO君ですが、人と関わるのは好きで、グループワークに参加したい気持ちは強いので、私とO君は色々なことが起こったときの作戦を立てて参加するようにしたり、その時の気持ちを振り返ったりして、すこしずつ安心して参加できるようになりました。O君は人の気持ちにもよく気が付き、助けてくれたり、声をかけてくれたりすることも多く優しい子だったのですが、集団の中でそのよさが周りの目に留まることはあまりありませんでした。繊細がゆえに、相手が怒っているのでは、とか、責められているのでは、とか気にしすぎてしまい、人がたくさんいる教室にずっといると“心がざわざわ”して、自分を守る行動になることが多かったからです。

O君が自分で見つけた自分の居場所

O君は、何かあれば私のいた教室に駆け込んできていたのですが、そのうち、学校でも彼がいやすい場所をつくってくれるようになりました。人がたくさんの教室にいるときもあるし、疲れたら人の少ない教室で過ごし、何かあったら私のいた教室に相談にくる、といったように、O君には色々な居場所がありました。最初は学校のルールとか、約束とかでうまく居場所を使えないことがありましたが、そんなルールをO君は自分で打ち破って切り開いていった、そんな感じでした。そして6年生になる頃にはO君がわたしのいた教室に来ることはほとんどなくなり、自分の切り開いた世界で人との関係をつくれるようになっていました。

その行動の裏にどんな思いがあるのか?耳を傾けるということ

その子のした行動が常識的にみてどうかとか、どうあるべきとか、色々なことにまずはとらわれないで、きちんとその子の思いに耳を傾けると、その子の本当のよさや、どうしたいと思っているのかが見えてくる。その子自身がそれに気づいたら、自分で自分の居場所を見つけていくことができる。色々な行動で思いを表してくれるO君との出会いは、どんな行動の裏にも思いがあるということを、改めて教えてくれる出会いでした。

次回は、“弱さも、できないこともある”ということを、O君やO君のお父さんが認められるようになることが、人との関りをつくっていくこと、そして本当の“自分らしい”生き方をつくっていくことであるということを教えてもらった、O君とO君のお父さんの歩みを書いてみたいと思います。




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