オープンダイアログ

最先端精神科医療を学ぶ

最先端精神科医療を学ぶ/オープンダイアローグ~対話で精神病からの回復を目指す~

2019.3.30 Mウイング(松本市中央公民館)

講師・斉藤環さん(精神科医・筑波大学教授)
主催・松本地区精神障害者家族会連絡協議会
参加者 約300名(7割が当事者と家族、3割が医療福祉関係)

ODの本等を読んだ人は1割。
資料として「対話実践のガイドライン」 配布。これは”ODNJ”を検索するとダウンロードできる。
講師からのメッセージ~オープンダイアローグ(OD)はケアや治療の手法として発展してきましたがシステムや思想を指し示す言葉でもあります。
この対話思想は、対話の在り方を再定義します。

この手法を学ぶことで、対人支援の在り方はもとより日常における人間関係や家族関係も大きく変わることでしょう。
対話の目的は、「対話を続けること」そのものです。
この目的をめざすことで、まるで副産物のように望ましい変化がもたらされるのです。
みなさんも是非、対話に潜在するパワーにふれてみてください。
<オープンンダイアローグネットワークジャパンの共同代表>

(斉藤) 2時間お話しして、最後に30分の質疑応答の時間をとります。
ODはフインランドの一地方発の統合失調症のケア・サービスシステム・対話の手法です。
対話を供給するためにシステムです。
特殊な思想ではありません。どんなふうに話をするのか、姿勢が問われます。
家族療法家たちが進めてきました。
慢性化状態で新規に入院ができない状態でもODを始めたらうまくいきました。
日本も似ていて、ベッド数が全国で32万床あります。
本日の資料にガイドラインを載せました。
ODは誰にでもできます。日本には専門家はいませんし、誰にでもできます。
今夜からご家族を誘ってやってみてください!
対話と言うと説得とか議論にいってしまうことが多いですが、違います。
私はひきこもり支援をしているからよくわかりますが、親が本人を説得してうまくいかず疲れ果てているという現実があります。
ODでは、説得は独り言です。
本日はこのことを持ち帰って、足元から始めてほしい。
うちに帰って車座で話し合う。
急性期の統合失調症は治ってしまいます。私もODを知った時は、エセの希望をばらまいていると思いました。
30年間、日本の精神医療にどっぷりつかって来ました。
向精神薬・無ケイレン性の電気ショックなどにどっぷりつかってきた人間です。
90%の精神科医は薬なしでは統合失調症は治らないと思ってきました。
ODを知って一部の精神科医は黒船が来たと思っています。
ある意味その通りです。
昔から急性期の統合失調症は治りやすいと言われてきました。
西ラップランド地方のトルシエ病院は1930年代には300床ありましたが、2016年には16床。
世界的に統合失調症は軽症化し、激減してきています。
認知症の人を精神科で見ているのは日本だけです。
民間病院が9割です。
10年以内に多くの病院が倒産すると思います。
すると、外来中心、地域移行中心になっていくと思います。
トルシエ病院のユッカ・プラルトネンとヤーク・セイラックが中心となり、患者抜きではカンフアレンスをしないと決めたのです。
すべてのカンフアレンスのやり方をひっく返したのです。
このルールができたおかげでODが確立したのです。
これを皆さんと共有したい!患者さんに聞かせられない話はないです。
トルシエ病院は医師8人、スタッフ200人。
医師含めたスタッフ一人の担当は20名。
1日に5人ですから、ゆっくり診ることができます。
日本でもODに診療報酬が付けば広がります。
「ODとは何か」という本は3万冊出ました。私の本としては珍しい。
この6月、二冊目が出ます。
エビデンスのことをよく質問されます。
たとえば、外来患者の処方はOD・23%、旧来・100%。
障がい手当支給は OD・23%、旧来・54%です。
トルシエ病院の方に質問しました。
”再発したらどうする?”
答えは、”再発するかもしれないが、またミーティングするから大丈夫です”との答えでした!
セイラックさんの本は難しいです。
三つの意味が
①サービス供給システム
②対話の手法
③世界観(思想)が区分けしないで書かれていますから。

本日は ②対話の手法 を中心に話します。
OD7つの原則。
暗記するくらいに理解してください。
すると患者さんが安心します。危険な方向に行く理由がありませんから。
結果を患者さんが評価し、診療者にフイードバックします。
脱線しますが、フインランドの精神科医療は無料です。24時間対応です。
①即時対応です。
患者さんが卒業するから、回っているのです。
②社会的ネットワーク、家族も参加すると治りがいい。ネットワークを修復することが有効です。
③柔軟性と機動性、治療が始まっていくと患者のニーズがドンドン変わっていきます。
初診でこうしてほしいと言える患者は多くはありません。対話する中でしたいことが見えてきます。
ODは、ノープラン・ノーアセスメント です。ニーズに合わる治療なのです。
哲学者の国分功一郎さんは、意思決定支援より欲望形成支援が大事と言って
ます。
(*意思というととても冷たく響く言葉は切断を名指ししていますから瞬間的です。欲望は過程であり、人の心の中で働いている力であるという意味でどこか熱い過程です、と)
例えば、ひきこもっている人との合意形成は無理です。変わりゆくニーズに合わせていくことと、トルシエは言ってます。過激な思想です。
④治療に責任を持つ、日本の病院では担当医が替わることは前提になっています。質が高いのは同じ人が対応するです。チームで複数で関わると変わらずに行けます。
⑤連続性こそ何よりの安心です。発達障がいの専門家が必要なら、次回に参加してもらえばいいのです。
⑥不確実性に耐える、何が起こるか分からない状況に耐えることです。
でも何かあった方がうまくいくんです、と言い切ることが大事!
抵抗勢力は”何かあったらあなたが責任を取るの?”と。
魔法の言葉です。
俺が責任を取るという人がいればいいのですが。
トルシエでは自殺した患者はいないと聞いて衝撃でした!
復帰中に自殺した人はいると。
要するにプランをたてません。対話に集中していくのです。
楽観主義。そこを信じれるかどうかです。
なにが起こるか分からないので、ワクワクするという風に変わってきます。
悪い状態の時には悲観論しか出てきません。
行動制限すれば安全は守れるというのは幻想です。
科学は予測のためのものです。
その中では不確かさを受入れることの方が大切です。
私のODの本に最初に関心を
示したのは看護師、次にSW、そして精神科医です。
精神医療の専門誌すべてが特集を組んで
くれました。東大医学部の笠井教授らも関心を示してくれました。
現場の精神医療にくさびを打ち込みたい。
今の医療は内科中心ですが、精神医療は薬では治りません。
製薬会社も撤退気味。
⑦抗うつ剤を飲めば寛解するのは40%、それをどう乗り越えるのかで、対話の問題が出てきました。
キチンと対話すれば、幻聴・妄想は治ります。「反精神医学」ではありません。処方を否定していません。
日本での最先端はべてるです。海外の医師が見学に来るのです。
ODと べてる は共鳴しています。
向谷地さんもODのメンバーです。べてるは思想に近いですが・・・。
ODは深い信頼関係を作りやすいのです。
幻聴は得意な経験ですとして、病名は付けません。
ピアの人も参加しています。
フインランドでは経験専門家と読んでいます。
ODの研修を受けた人なら誰でもできます。
私のチームは心理士とナース2人の4人です。
ヒエラルキーを無くさないとODはできません。
呼び名が替わると関係性が変わります。ファーストネームで呼んでいます。

透明性とリクレクティング~
ミーティングやカンフアレンスに患者が参加してもらう形です。参加した方はまっとうなことをしていると感じ、後味がいいです。
治療チームはスタッフのばらつきが減り、平均的に質が上がってきます。多くのセラピストは中立性の名の下に、自分の感情を出してはいけない、プライベートを話してはいけないとなっています。硬直性を持つことになりますが、
チームでは依存性はなくなります。
密室化もしにくいのです。
一つだけルールとしてあるのは、セラピストは患者よりは感情的になってはいけないということです。
もちろん、個人精神療法を否定しているわけではありません。
ODと並行して、1対1もアリです。
リフレクティングは、家族療法で窓ガラスの向こうにいた心理士さん達の会話を、窓がラスを取り外して患者さんにも聞いてもらったらうまくいったことがきっかけです。
治療者が今後の治療のアイデアなどを話し合うのを、聞いてもらう訳です。
治療者同士が異論を議論してもかまわないのです。
肯定的な評価をし、アイデアを出すわけです。患者は気にいったアイデアをつまんでいく形です。
ルフレクティングをするにはチームでなければできませんね。
例えば、夫婦でやるとか、仲間を募ってやるとか・・・。

実践の心得~
対話を続け、広げ、深められることです。治そうと思うこと、変えてやろうというような下心や、よこしまな心を持って対話するのはダメです。
なぜか、勝手によくなっていきます。結果は後から付いてきます。
昔から、医師は治そうとしすぎないこと、無心に患者と対話しなさいと言われてきましたね。
ひたすら対話するのです。
議論・説得・説明はしない。それは独り言です。
すべて結論が先にあるからです。
お互いが変わっていくことが条件です。
双方向性です!
例えば親御さんも、自分が変わるかもしれないという不安を受入れてください。
対話の中で相手がどういう世界観を持っているのかを知ること。
例えば、声が聞こると言ったら、どんな声ですか?
どこの方向から?
どんな気持ちになりますか?
などど訊くわけです。
かつての医者なら、”それは統合失調症の薬を飲んでください”となります。
昔は幻聴を聞くと悪化するから聞いてはいけない、と教えられてきました。
それはフェイクニュースです。
幻聴や妄想を否定するということは、その人を否定することです。
否定すると幻聴を強化します。が、肯定する必要もありません。
掘り下げて聞くといいと思います。
すると幻聴は減っていく、拡散していきます。
聞く時はチームで聞いて下さい。
共有する人が多いほど治りがいいです。
無知の姿勢で謙虚な姿勢で聞いて下さい。
ここでは主観が大事です。
例えば親御さんはよく言います。
”そう言いますが、客観的にはそういうことなないですよね” と。
主観と主観の共有を交換することです。
すると、偏った主観に見えたことが消えていきます。
対話実践のガイドラインの大まかな流れはこうなります。
室内に入ったら座る椅子を患者さんに選んでもらいます。
フアーストネームで自己紹介をします。
言葉で共有します。
フロイトが発見しましたが、言葉にすると消える。
さらにチームで共有します。
途中でリフレクティングをします。
この時、専門家は患者に向けて話してはいけません。
専門家どうしで話します。
対話を1時間から1時間半、継続します。
こちらが予測しない展開になることが多いです。
予測を手放した方がうまくいきます。

OD対話実践に関する12の基本要素について~
まず本日は時間をどう使いたいんですか? と聞きます。
何を話してもいいですよと保証します。
いわゆる直面化は必要ありません。
暴力を振るうのは不安への反応症状です。
私も患者さんに殴られたことがあります。
それはなんかやると保護室だよ、注射しますよ、というシチュエーションが多かったと思います。

ケロブスタ病院の方から、”急性期の状態ほど窓が開く” という発言がありました。
症状の本質に届きやすいこと。他者の介入を拒めない状態であること。
対話することを徹底すると暴力のリスクは減ります。
対話中には落ち着いて席に座ってくださいと言います。
アンティシぺーションダイアローグ(未来語りのダイアローグ)というのがあります。
心配事を取り上げて、専門家が患者にアドバイスするときの手法です。 (*1980年代にODと共に始まった)
フインランドでは、患者の拒否はこちら側の敗北であると考えたスタッフがいた訳です。
例えば、我々が不安なので不安を取り除く方法を教えてほしいと、患者に伝えた訳です。
例えばひきこもり支援で、本人を不安に落とし込まないと言うことを聞かないと思っている支援者がいます。
ひきこもりは内閣府の調査では100万人います、実数はその倍でしょう。
疲弊していて立ち上がれない人に不安を煽るのはダメです。

事例の話をします。

① <ペッカとマイヤの物語> (「ODとは何か」 p.99~108 に詳述) 30代・既婚男性。

訴えは、ある陰謀に巻き込まれており、その組織の人間につけ狙われている!
精神科のチーム(医師・心理士・ナース)が自宅に行き妻を交えて話し合った。
30分ほど彼はまとまらない話を続けてたが、ナースが何が心配なの?と質問。
”停電明かりが消えて、直感した。誰かが陰謀を企んでいると”。
さらに質問、”あなたを殺しに来ると”。
ペッカは、”それはもちろん最悪の場合だけどね”
と答えました。この時点ですでにミーティングへの安心感と信頼感は十分醸成されていました。
そしてリフレクティングをしました。
心理士からは、”全体が見渡せない時ほど人は細部にこだわってしまうかもね”と発言。
こうして、ペッカは停電と前の雇用主の発言が偶然の一致だと思うと言ったのです。
ここにきてチームの意見はもう病的な状態ではないとなりました。
こうした変化の下で、ペッカは主体性の感覚を取り戻しつつあるようでした。
抗えないもののなすがままになっていたペッカとは対照的でした。
治療から7年たっても再発しませんでした。

② <30代男性・ひきこもり> 家族への暴力があり本人が来院。チームを組んで関わりました。
父親との仲が悪かったのですが、対話が進んでいく中で彼から妥協案が示され実行され、支援スタッフの方に回りました。
「引きこもり新聞」(当事者による当事者のための新聞)を発行しました。
”説得では結論が先行している。指示や説教は当事者の力を奪う!”と言いました。
奪っている可能性を想像してみてください。

ODに関連する技法と理論~
中心となる技法はリフレクティングです。
社会的ネットワークの重要性です。
患者・家族・つながりのある人を、治療ミーティングにみんな招くのです。
最後に、ケロブスタ病院のスタッフの名言をお伝えします。
① 再発したらまたミーティングをしたらいいのです。
② 急性期ほど窓が開かれています。
③ 日本の皆さんはODに何を期待するのですか?

オープンダイアローグ・ネットワークジャパンを作りました。
病床を全廃とは言わないが、今の10%に減らしたい。
集まった皆さんの声を関係者に、政府に届けてほしい。
ODを保険点数化させたい。そうすれば飛躍的にODは広がると思います。
黒船にうまく便乗して広げていきたい。

(質問) 20年間病んでいる30代の娘のことで質問です。
”ODの専門家はいない” と聞いてうれしかった。
たまに娘との対話の中で手ごたえを感じます。
チームの力。病院で医師やナースと面接する時がありますが、ODとは真逆です。薬も多い。どういうことでしょうか?

(斉藤) 病院では薬物中心が現実ですね。 今病院にチーム支援を期待するのは無理ですね。
ODは保険点数外なので。先ほど申し上げたのは、病院に頼らずにやってみましょう、と。
例えば家族会のメンバーにチームへの参加をお願いしてくださいと。幻聴などが減ってくれば医師も減薬すると思います。
ODをやった結果を医師にも伝えてください。応用してほしい。

(質問) ”急性期ほど窓が開いている” という言葉に感銘しました。
アカデミズムではODに感心が高まっていると。
一方で、”精神科医にも拳銃を” という話も聞き、拘束の恐れを感じます。

(斉藤) 精神科病院協会の会長さんの発言ですね。根拠がないと感じます。
日本の精神科病院は9割が私立です。地域移行を進められない、認知症患者を入院させることになりました。
収容文化を捨てる、隣に患者が住むことを認めることです。身体拘束は欧州では平均10数時間ですが、日本は延々と拘束する風習があった。
杏林大学教授の長谷川利夫教授は、精神科の身体拘束を考える会長です。

(質問) 医師から聞いた話ですが、精神科では措置入院が多いと。その理由を知りたい。

(斉藤) 化石のような制度で、医師二人の判断で入院させられます。日本では親の権限が大きい。

(質問) 20代の娘が引きこもりです。 専門家に頼るのは難しい。父子家庭なのでネットワークを組むにはどうしたら?
斉藤さんの本(「ひきこもり救出マニュアル」・ちくま文庫)も読みました。

(斉藤) ひきこもりには家族会のネットワークがあります。同志を募ってほしい。身近な支援者は親です。
お互いに訪問しあうとか、専門性がなくてもやれますので。 そもそも対話ができていませんので、どこから対話をするのかは本に書いてありますので読んでほしい。
例えば部屋の前で皆さんが対話を繰り返すとかもいい。
肯定的な評価をすることが大事です。

«文責・田中敏夫»